ポンプなどの流体機械では排気騒音(排気脈動)を低減させる目的で、サイレンサ(消音器)が設置されています。
サイレンサを設計する上で重要なポイントは拡張室や絞りですが、そちらの設計方法については以下の記事で紹介しました。
エンジンに設置されたサイレンサは排気が高温になるためあまり使われませんが、ポンプなどでは部品と部品のつなぎ目(当接面)にゴム製のOリングが使われることがあります。
Oリングを選定する上で、耐熱温度や耐薬品性などは当然重要な選定基準になりますが、それらをクリアする場合はサイレンサ用として優位な材料を選定する必要があります。
サイレンサでのOリング材料の選定
サイレンサを構成するには拡張室と呼ばれる空間(空洞)を設ける必要があります。
いま、拡張室を構成するために凹形状の部品とフタとなる部品を用意し、Oリングを取り付けネジで締結したとします。
そのとき、設計者のイメージするのはFig. 1で示すような状態ではないでしょうか。
しかし、フタとなる部品(緑色部品)は凹形状の部品と別体であり、金属などの弾性体でできています。
ねじの頭の直下は軸力がかかるため密着しますが、それ以外のところはFig. 2で示すとおり、Oリングの反力によって凹形状の部品との当接面からフタとなる部品が微小に持ち上げられた状態になります。
(排気脈動がかかるとねじなどの締結点の根本のほうから振動します。)
これにより、フタとなる部品は断面方向で見ると、両持ちはりのようになりバネとして機能します。
また、Oリングは材料の粘弾性により、バネとダンパーとして機能します。
よって、Fig. 3で示すとおり、フタ周辺部品がバネ・マス・ダンパー系として機能することになります。
このうち、Oリングのバネ成分はゴムの硬度で決まりますが、Oリングのメイン機能は気密をとることですので容易に変更することはできません。(Oリングのゴムの硬度は通常は気密性を考慮して70°です)
変えられるのはゴム材質によって変わる材料の粘性からくるダンパー成分のみとなります。
ダンパーは共振点での振幅に寄与しますので、これは見逃せないポイントです。
材料の減衰は損失正接(\(tan\,\delta\)、タンジェントデルタ、タンデル)と呼ばれ、この数値が大きいほど減衰が大きくなり、共振点での振幅(音)が小さくなります。
ゴム材料 | 損失正接(\(tan\,\delta\)) |
---|---|
VMQ(シリコンゴム) | 0.07 |
EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム) | 0.20 |
FKM(フッ素ゴム) | 0.30 |
IIR(ブチルゴム) | 0.38 |
Oリングの基本的な使い方は以下の記事を参考にしてみてね。
まとめ
本記事ではサイレンサ(消音器)の設計にあたり、Oリングの材料の選定方法について紹介しました。
サイレンサを設計するには冒頭で紹介した拡張室や絞りの設計以外にも、サイレンサ自体から音が漏れないように透過音にも気を遣う必要があります。透過音に関しては以下の記事を参考にしてみてください。
また、ゴムの弾性(ヤング率)と硬度の関係について興味を持たれた方は、以下の記事で換算方法について紹介しています。