高速道路の写真でしょうか?
道路に融雪剤(塩化ナトリウム or 塩化カルシウム)を撒いていますね。
雪国では道路に水を撒くところもあるけど、
気温が下がる地域では水を撒くとアイスバーンになって逆に危険だから、
融雪剤を撒くところもあるね。
融雪剤を撒かれると、車の下回りが錆ちゃうんですよね。。。
そうだね!今回は自動車部品などによく使われる
アルミダイカスト(Aluminum die-casting)の腐食
について解説するよ。
本記事ではアルミダイカスト製の部品の腐食、特にOリングのシール面などの腐食(corrosion)のメカニズムと対策について解説します。
Keywords|Oリング、シール面、隙間腐食、アルミダイカスト、アルマイト処理
アルミニウム合金の腐食
アルミニウム合金の性質
今日では工業製品にアルミニウム合金が多く使用されています。
アルミニウム(Al)はイオン化傾向が大きく、本来は非常に活性な金属です。
しかし、表面に自然に生成する数nmの薄い酸化アルミニウム(Al2O3)の被膜が不働態被膜(Passive film)となり、多くの環境下で優れた耐食性を発揮します。
この不働態被膜を持つアルミニウムは、中性の環境下では優れた耐食性を持つものの、酸性とアルカリ性の環境下では腐食します。
なお、酸とアルカリの両方で腐食する金属を両性金属(Amphoteric metal)と言います。
Fig.2に示すように、アルミニウムが耐食性を示すpHの範囲は4.5~7程度であり、これ以外の範囲では不働態被膜を生成しなくなり、腐食が進行します。
因みにアルミニウムの錆(水酸化アルミニウム)は白いため、白錆と呼ばれるよ。
アルミニウム合金の腐食形態、メカニズム
アルミニウムの腐食形態は全面腐食と局部腐食に大別されます。
- 全面腐食
単独の金属の全面に生じる腐食を言う。
アルミニウム合金の全面腐食は臨海大気や工業大気でも1μm/年以下の腐食速度であり、通常は無視できる。 - 局部腐食
金属表面の局部に集中して生じる腐食を言う。
多くの場合はこちらが問題となる。
局部腐食は更に孔食、隙間腐食、粒界腐食や応力腐食などに分類されます。
孔食
孔食はアルミニウムのような不働態化する金属で孔状に進む腐食を言います。
全体の強度には影響しませんが、配管やタンクのようなもので起こると漏れが発生する可能性があります。
孔食の発生・成長模式図をFig.3に示します。
孔食は不働態被膜の弱いところで、塩化物イオン(Cl–)が水と反応して塩酸(HCl)ができることで腐食を生じます。
隙間腐食
隙間腐食は金属と金属、金属と非金属の隙間に生じる局部腐食を言います。
例えば、本記事で取り上げているような、Oリングのシール面などが代表的な例として挙げられます。
隙間腐食もアルミニウムのような不働態化する金属で起こります。隙間腐食のメカニズムは以下の通りです。
- Oリングのシール面を形成している部品間の当接面にて、平面度などのうねり成分により隙間が発生。
- 環境からの水が当接面の隙間に停滞。
- 隙間内の水(H2O)の酸素を不働態被膜が消費し、溶存酸素濃度が低下。
- 不働態被膜が不安定になり、隙間内のアルミニウムイオン(Al3+)が増加。
- アルミニウムイオンに引かれて、塩化物イオン(Cl–)が泳動してくる。
- 加水分解反応で水素イオン(H+)が増え、pHが低下。
- 不働態被膜が修復されなくなり、激しい腐食が発生する。【隙間腐食発生】
ステンレス鋼も不働態化する金属のため、隙間腐食が発生するよ。
ただし、チタンも同様に不働態化する金属だけど、こちらは不働態被膜が非常に強固なため、隙間腐食はほとんど発生しないよ。
アルミニウム合金の腐食対策
腐食対策
アルミダイカストなどに用いられるアルミニウム合金の耐食性を向上されるためには、表面に人工的に厚い酸化アルミニウム被膜を形成させる方法があります。これには、一般的にはアルマイト処理(陽極酸化処理)という方法がとられます。
アルマイト処理は、アルミニウム合金をアノード、白金などをカソードにして、硫酸などの酸性溶液中で電気分解することで、アノード側の表面に酸化アルミニウムの結晶を生成する処理になります。
この結晶は、Fig.4のように六角柱状に緻密に並んでいますが、垂直方向に微細な孔が空いています。
Fig.4を見るとアルマイトの被膜は、半分は母材側、
もう半分は外側に成長するんですね。
クリアランスなどを考える場合は、注意が必要そうですね。
この微細の孔が出来たままでは耐食性はあまりよくありませんが、沸騰水に触れさせると孔の表面が閉じます。これを封孔処理と言います。
なお、通常はアルマイト処理をしただけだと元のアルミニウムの色をしていますが、封孔処理を行うときに染料を閉じ込めることで、着色することも可能です。
ただし、アルミダイカストに用いるADC12などは、合金中に多くシリコンが含まれており、染料を入れなくても灰色の見た目をしています。
アルマイト処理や封孔処理の条件は、
社内規格や処理業者の条件を確認して図面指示してね。
部品の角部(エッジ)は六角形の結晶がうまく生成しないため、
必要に応じて面取りをするなどの処置も必要そうですね。
アルマイト処理の注意点
アルマイト処理は細く奥まった形状(ねじ穴やノックピン穴)にはアルマイトの被膜は付かず、口元の被膜の仕上がりも粉を吹いたように不安定になりがちです。
また、一般的にアルマイト処理をすると摩擦係数が増える方向にいきますので、ねじの軸力が減りますので注意が必要です。
上記を踏まえ、ねじ穴などはアルマイト処理後に加工し、クロメート処理(3価)する方法もあります。
ただし、クロメート処理はアルマイト処理に比べ、耐食性は劣ります。
部品同士を締結しているねじの耐食性も問題ないか
合わせて確認してみてね。
耐食性向上には、亜鉛ニッケルめっきなどがよく使われているね!
まとめ
最後に記事の内容をまとめておしまいとしたいと思います。
- アルミ合金製の部品の当接面などは、使用環境により隙間腐食が発生する。
- 隙間腐食が発生するとOリングのシール面などにダメージを与える可能性がある。
- 隙間腐食を抑制するためにはアルマイト処理などを行う必要がある。