今回は自動車や精密機器などに使用される防振ゴムについて扱うよ。
本記事では防振ゴムの原理や”簡易的な”設計方法について解説します。
防振ゴムとは
防振ゴムは自動車や精密機器などに使用されています。
防振ゴムは、基礎から機器へ、もしくは機器から基礎へ振動を伝えにくくする働きをしますが、この機能を振動絶縁(防振)と言います。
ごく一部ですが、防振ゴムの使用例を以下に示します。
- 外部から伝わる振動より、精密機器が破損しないように保護する。
- 振動を発生するポンプなどの自動車部品(起振源)から車体へ振動を伝えないようにする。
(振動として車体を伝わり、車室内で音として響かないようにする)
特に自動車のような密閉空間では、振動が音として顕著に表れる場合もあるよ!
振動伝達率
Fig.1のように機器を防振支持した場合を考えます。
機器が発生する振動(加振力)をP0とし、防振ゴムを介して基礎へ伝わる力をPとします。このとき、機器から基礎へ伝わった力の比率を振動伝達率Trと言います。
同様にFig.2は、基礎の振幅をA0とし、機器に伝わった振幅をAとします。このとき、機器に伝わった振幅の比率も振動伝達率Trと言います。
以上をまとめると、振動伝達率Trは式(1)で表すことができます。
振動伝達率Trが小さいほど、高性能な防振ゴムということになるよ。
振動絶縁の原理
防振ゴムによる振動絶縁の原理(メカニズム)はバネ・マス・ダンパー系のモデルで考えることができます。
機器の質量をm、防振ゴムのバネ定数をK、防振ゴムの減衰をtanδ、角振動数をω、時間をtとすると、Fig.3のように表すことが出来ます。
なお、tanδ(タンデル)は損失正接とも言います。
ここで、機器もしくは基礎に働く振動周波数をf、振動系の固有振動数をf0とすると、上記モデルでの振動伝達率Trは式(2)で求めることが出来ます。
ここで、f/f0を振動数比λと言います。式(2)をtanδごとに作図したものをFig.5に示します。
防振効果(Tr<1)を得るためには、発生している周波数を確認し、振動数比λが√2以上の領域にする必要があります。
なお、固有振動数f0は式(3)より求めることが出来ます。一般には不減衰固有振動数のことを単に固有振動数と言います。
防振領域を増やすためにはバネ定数を小さくすれば良いけど、防振ゴム自体の機械的な強度(耐久性)が落ちるから、そこはトレードオフになるよ!
防振ゴムの設計
例題として下記の場合を考えてみます。
機器重量 m = 6 kg、支持数 n = 3 点、目標の振動伝達率 Tr < 0.5、問題となっている周波数fp = 200Hzの時の静的バネ定数Kstを求めよ。
なお、静的バネ定数Kstと動的バネ定数Kdynとの比α = Kdyn/Kstは1.2とする。
1.防振ゴム1個当たりが負担する質量m’の計算
2.目標固有振動数fの計算
式(2)のtanδ = 0のとき、振動伝達率Trは
となる。正の実数解だけ持つものとし、λについて解くと、
となる。よって、目標固有振動数fは
となる。
3.目標動的バネ定数Kdynを計算
式(3)を式変形すると、
となる。よって
となる。
4.目標静的バネ定数Kstを計算
よって、Tr<0.5を満たすためには878 N/mm未満にする必要がある。
あとは構造解析(CAE)にて878N/mm未満になる防振ゴム形状を検討しよう。
また、応力の確認も忘れずに行おう。
最後に
実際に防振ゴムを製作する場合は、図面やD-FMEAなどの設計資料も作成するようになると思いますが、先ずは簡易型(アクリル型など)で試作し、振動試験機などを使って単体評価を実施するとよいでしょう。
単体評価で問題なければ、実際の機械システムに組み込んで、加速度センサーや騒音計で評価を行います。もし、狙った性能が出ていない場合は、微調整の範囲であれば、ゴムの硬度の変更で対応するとよいでしょう。
ゴム材料ごとに耐熱温度、耐薬品性が異なるため、適切なものを選ぶようにしましょう。
試作する場合は、本番と同じ材料やサプライヤを選ばないと特性や耐久性が変わるため、気をつけよう。