以前の記事にてDCモータが回転するメカニズムについて解説しました。
本記事ではモータの機械的時定数の意味について解説し、機械的時定数の導出についても解説していきます。
機械的時定数とは
DCモータに一定の電圧を印加すると回転数が上昇し、やがて一定の回転数(定常回転数)になります。
機械的時定数(Mechanical time constant)とは、電源ONから定常回転数の63.2%に達するまでの時間のことです。
fig. 1 DCモータのステップ応答

カヲル
回転数N(単位:rpm)と角速度\omega(単位:rad/s)は以下の関係があるよ。
\omega = N \times \displaystyle \frac{\pi}{30} \tag{1}
モータのアーマチュア(回転子)の慣性モーメントをJ(単位:kg \cdot m^2)、巻線の電気抵抗をR(単位:\Omega)、トルク定数をK_T(単位:N \cdot m/A)、逆起電力定数をK_E(単位:V/(rad/s))と置くと、機械的時定数\tau_M(単位:s)は下式より求まります。
モータの機械的時定数
\tau_M = \frac{J\,R}{K_T\,K_E} \tag{2}
機械的時定数の導出
まず、電圧e_{mt}(単位:V)を印加し、モータシャフトに負荷トルクT_{ld}(単位:N \cdot m)を加えた時に角速度が\omega(単位:rad/s)となる下図のようなDCモータのモデル(等価回路)を考えます。
fig. 2 DCモータの等価回路
モータに電圧e_{mt}を印加した際に流れる電流をi(単位:A)と置くと、上記のモデルを表現する数理式は以下のようになります。
\begin{eqnarray}
&&e_{mt} = R\,i + L \frac{di}{dt} + K_E \omega \tag{3}\\
&&J \frac{d\omega}{dt} = K_T i \,- \, T_{ld} \tag{4}
\end{eqnarray}

カヲル
本記事では t<0 でモータに印加される電圧が 0(V)だった状態が、t \geq 0 でモータに印加される電圧が e_{mt}(V)となるステップ入力での応答(ステップ応答)について考えます。
このとき、機械的な応答より電気的な応答のほうが十分速いものとして、巻線のインダクタンスL(単位:H)は無視できるものとすると、式(3)は以下のようになります。
e_{mt} = R\,i + K_E \omega \tag{5}\\
上式をiについて解くと
i = \,-\, \frac{K_E}{R} \omega + \frac{e_{mt}}{R} \tag{6}\\
となります。式(4)に式(6)を代入し整理すると
\begin{eqnarray}
&& J \frac{d\omega}{dt} = K_T \left( -\, \frac{K_E}{R} \omega + \frac{e_{mt}}{R} \right) \,- \, T_{ld} \tag{7}\\ \\
\rightarrow && \frac{d\omega}{dt} = \,-\, \frac{K_T}{J} \left( \frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld} \right) \tag{8} \\
\end{eqnarray}
となります。上式を変数分離すると
\frac{1}{\displaystyle \frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld}} d\omega = \,-\, \frac{K_T}{J} dt \tag{9} \\
となります。両辺を積分し、整理すると以下のようになります。(C_1は積分定数)
\begin{eqnarray}
&&\int{\frac{1}{\displaystyle \frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld}}} d\omega = \int{\,-\, \frac{K_T}{J} }dt \tag{10} \\ \\
\rightarrow && \frac{R}{K_E}\,\ln{\left( \frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld}\right)} = \,-\, \frac{K_T}{J}t + C_1 \tag{11} \\ \\
\rightarrow && \ln{\left( \frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld}\right)} = \,-\, \frac{K_T K_E}{J R}t + \frac{K_E}{R}C_1 \tag{12} \\ \\
\end{eqnarray}
式(12)の \frac{K_E}{R}C_1 は定数であるのでC_2と置き換え、両辺に指数をとると
\frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld} = \exp\left(-\, \frac{K_T K_E}{J R}t + C_2 \right) \tag{13} \\
となり、式(13)の\exp(C_2)は定数であるのでC_3と置き換え、\omegaについて解くと
\begin{eqnarray}
&&\frac{K_E}{R} \omega \,-\, \frac{e_{mt}}{R} + \frac{1}{K_T}T_{ld} = C_3 \exp\left(-\, \frac{K_T K_E}{J R}t \right) \tag{14} \\ \\
\rightarrow && \frac{K_E}{R} \omega = C_3 \exp\left(-\, \frac{K_T K_E}{J R}t \right) + \frac{e_{mt}}{R} \,-\, \frac{1}{K_T}T_{ld} \tag{15} \\ \\
\rightarrow && \omega = C_4 \exp\left(-\, \frac{K_T K_E}{J R}t \right) + \left( \frac{e_{mt}}{K_E} \,-\, \frac{R}{K_T K_E}T_{ld} \right) \tag{16} \\
\end{eqnarray}
となります。ここで、t=0のとき、\omega=0という初期条件を与えると
C_4 = \,-\, \left( \frac{e_{mt}}{K_E} \,-\, \frac{R}{K_T K_E}T_{ld} \right) \tag{17} \\
となるので、式(16)に式(17)を代入すると以下のようになります。
\omega = \left( \frac{e_{mt}}{K_E} \,-\, \frac{R}{K_T K_E}T_{ld} \right) \left[1 \,-\, \exp \left( \,-\, \frac{K_T K_E}{J T}t \right) \right]
\tag{18} \\
なお、角速度\omegaが変化する中で、負荷トルクT_{ld}を厳密に一定にすることは通常は困難あることが多いです。
よって、式(18)に T_{ld} = 0 を代入し、無負荷時のステップ応答を求めると下式のようになります。
モータのステップ応答
\omega = \frac{e_{mt}}{K_E} \left[1 \,-\, \exp \left( \,-\, \frac{K_T K_E}{J T}t \right) \right]
\tag{19} \\
式(19)の \frac{J R}{K_T K_E} の部分は応答の速さを示し、機械的時定数と呼ばれます。
まとめ
本記事ではモータに一定の負荷トルクを印加した際のステップ応答の式について解説し、その応答の速さを示す指標として機械的時定数を紹介しました。
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また、モータ設計の入門書としては以下の書籍が参考になります。モータの概略設計、鉄心設計、巻線設計、詳細設計、性能計算、材料選定、放熱、等価回路、磁界解析など一通り勉強することができます。
また、モータを応用(モータ使う機器を設計)する方がモータの仕様書を書く際にも大変役に立ちます。
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